残雪の時期だけのお楽しみ。山が舞台の、壮大な自然のアート!

馬、牛、うさぎ、トンビにツバメ、松の木、それに苗とり爺、苗しょい婆…。これみんな、雪形の絵柄の名前です。何だか昔話の世界みたいで、のどかな気持ちにさせてくれますね。それもそのはず、雪形はその地域にずっと昔から言い伝えられてきたもの。だから昔の暮らしの中で身近なものの名前が付いていることが多いのです。
また雪形は、山を違う方角からみると形が変わり呼び名も違っていたりするのも面白いところ。さらに絵柄に対して、いかにも納得してしまうような物語が付いていることもあり、ご先祖様の想像力には感心してしまいます!そして最近では、自分にはこう見える、という「マイ雪形」を見つける楽しみ方も出てきて、八甲田大岳にハートの雪形を見つけた人もいるみたいですよ。
ちなみに雪形には、残雪そのものの形が何かに見えるタイプと、残雪に囲まれた山肌部分が何かの形に見えるタイプの2種類あります。雪どけの進み具合によって形が変化していくのも雪形の面白さなので、まずは気長にじっくり、山をウォッチングしてみましょう!

八甲田山系の雪形一例。左からトンビ、馬、カニバサミ、牛クビ、松
岩木山で見つけたマイ雪形!「怖くない子供のアクマくん」(笑)

青森県は、全国有数の雪形王国!雪が多い。そして山を見る人が多い

今回の特集にあたり、青森市在住で雪形を研究されている室谷洋司さんにいろいろ教えていただきました。室谷さんの研究成果のホームページによると、日本で雪形が多いのは、新潟県、長野県、そして青森県の順(出典『山の紋章・雪形』田淵行男著1981)。雪の多い地域に雪形が多いのは、ある意味当然ですね。しかし、1つの山に対して確認されている雪形の数でいえば、なんと青森県の岩木山が全国1位だそうです(八甲田山も6位!)。その後、全国的に雪形の認定が増えたので順位が変動した可能性はありますが、それにしても雪形は見る人がいてこそ名前が付くもの。青森県人が山をよく見てるということは間違いなさそうです。

弘前市から望む岩木山(2001年5月29日撮影)
わかりやすい一例。大きなツバメが颯爽と!

七戸町からは「白馬」が見える。今年はいつ、現れるかな?

さて、わが七戸町からも、とっておきの雪形が見えることをご存知ですか?八甲田大岳の右斜面で、徐々に現れてくる細長い形。それが「駒の雪」または「白馬」と呼ばれている雪形です。馬の名産地の七戸ならではの命名ですが、その可愛らしい見た目とは裏腹に、七戸の長い歴史の中ではとても重要な役割を担ってきました。つまり例年、決まった形になるのを待って田植えなど農作業の各段階の時期の目安にしたり、白馬の形ができた日付けによって実りの豊凶を予測したりしてきたのです。

A:七戸町から望む八甲田大岳(2001年6月22日撮影)
B:Aと同じ場所から(2001年7月7日撮影)
何とも愛らしい白馬の姿が現れました!

そもそも雪形は、自然をおそれ、自然に感謝し、必死に大地と向き合っていた時代に、農作業や山仕事の「暦」として大事だったからこそ受け継がれてきた、という本質があります。雪形は、自然からのメッセージを敏感に受け取るための、先人たちの知恵の結晶だったのです。この由来を知ると、これから雪形を見る目が少し変わりそうですね。

取材協力・写真提供(撮影日記載のもの)および雪形イラストの提供=室谷洋司氏
参考『雪形と伝説 室谷洋司』
参考『やぶなべ会報』19号から「三方から眺めた八甲田山の雪形伝承」